「若年社会的ひき こもり者の実態と就労過程に関する調査」について

雇用開発センターでは、来年度標記の調査を予定しています。
今後、調査実施にむけて、関係する調査、研究の成果を確認し、それらを踏まえて調査設計を行っていきます。
この調査実施に向けて確認した先行研究の内容を整理し、それらを踏まえて調査の視点、調査内容の在り方を検討していきます。
このコーナーでは、その作業の過程で確認された先行調査・研究の概要を何回かに分けて紹介しながら、今後行う調査の視点を模索していきます。

センターでは、引きこもり者の社会復帰に向けた就労支援に関心をお持ちの方々のご意見も、この調査に反映したいと考えています。特に若手研究者、引きこも り者への支援を行われている方々の幅広いご意見をお待ちします。

この調査に関する、ご意見ご要望の宛先 一般財団法人雇用開発センター 広報(kouhou@earc.or.jp

○    調査の背景および目的

労働・雇用問題、特に労働力の中核である若年層の就労問題について、新卒学生の厳しい就職活動や新社会人の高い離職率などが大きく報じられています。一 方、就職活動を行う段階にまで至らない人々、すなわち「社会的ひきこもり」の状態にある人々の問題もまた、近年、とみに注目を集めています。

厳しい経済社会の中で働いている社会人の人々にしてみれば、社会的ひきこもりの状態にある人は、豊かな日本社会の中にあって働かずに甘えている人たちに 映るかもしれません。
しかし、この理解は必ずしも正しいわけではありません。
厚生労働省(2000)は、心身の障害・不安、社会的排除や摩擦、社会的孤立や孤独による社会問題は、今日、重複・複合化しており、ひきこもりの問題も 様々な社会問題と関連して存在しているとしています。
社会的排除や孤立の問題は通常、厚生労働省(2000)が指摘するように、「見えにくい」状況となっており、孤立死や自殺といった極端な形でのみ顕在化 することが少なくありません。社会的ひきこもり者の問題が単なる甘えの問題であるように誤解されるのも無理ないことです。
私たちにとって必要なのは、社会的ひきこもりの実際を正しく理解し、社会的ひきこもり者をいかに社会に迎え入れるかについて、しっかりと検討することで す。

ところが、そもそもどのくらいの人々が社会的ひきこもりの状態にあり、また、その人々がどのような苦境に晒されているのかについてさえ、まだ具体的な調 査研究はほとんどされていません。
そこで本研究では、社会的ひきこもり問題について、その概況や実態に関する調査を行い、社会的ひきこもり者を就業等を通して社会に迎え入れる労働施策を 立案するための基礎的データを提供することを目的とします。

○    社会的ひきこもりとは

厚生労働省(2001)は、ひきこもりについて、

「『ひきこもり』はさまざまな要因によって社会的な参加の場面がせばまり、自宅以外での生活の場が長期にわたって失われている状態」

としています。
厚生労働省(2001)によれば、ひきこもりの要因は生物—心理—社会的要因の複合物であり、ひきこもりは「いじめのせい」「病気のせい」等と1つの原 因をして捉えてはならないものです。
しかし、ひきこもり者の中には、生物—心理的要因(うつ病、強迫性障害、発達障害など)が強く関与しており、疾患や障害によってひきこもり状態を余儀な くされている場合も少なくありません。
そこで厚生労働省(2001)は、ひきこもり者を「明確な精神疾患・精神障害を持つ人々」「病気とよんでよいかわからないが、ひきこもりを続けている人 々」に分け、後者を「社会的ひきこもり」と呼称することとしました。

労働・雇用問題からひきこもり者を捉えたとき、前者は明らかにその治療を行うことが最重要なことでしょう。
医師や家族等による適切なケアによって疾患・障害を克服し、社会参加への第一歩を踏み出すことが肝要です。
対して後者は、疾患や障害が明らかになっていないだけで、その治療を行うことが重要である場合もありますが、社会的要因に対する社会環境面でのケアに社 会参加への活路を見出すことが可能かもしれません。
厚生労働省(2001)によれば、ひきこもり者は、周囲との相互関係の中で、ひきこもることによって強いストレスを避け、仮の安定を得ている状態にある と理解されます。
すなわち、社会的ひきこもり者の就労問題とは、社会的ひきこもり者を取り巻く環境の問題であり、社会的ひきこもり者に対するエンパワメント(自立支援) もさることながら、社会的ひきこもり者を迎え入れる労働社会のあり方の問題であるともいえるでしょう。

〔参考文献〕
厚生労働省(2000)「社会的な援護を必要とする人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会報告書」
—————(2001)「『社会的ひきこもり』対応ガイドライン(暫定版)」。

【調査に関するお問い合わせ】
メール:kouhou@earc.or.jp
電 話:03-6550-9516(相澤・白川・氏原)
一般財団法人雇用開発センター